講義開始前のざわつく室内。
そこで私はとある人物を探して視線をキョロキョロと彷徨わす。
そこでふと中央の席ら辺で目立つ色をした髪が目に留まった。
私はパッと笑顔を浮べると少し足早にその席まで歩み寄り誰かが座る前にとそそくさと隣に腰掛けた。 そして目当ての人物の方を向き、口を開いた。


「おはよ、ジロー」
「……オハヨ」


私の挨拶にジローこと芥川滋郎は伏せていた顔を上げチラッと私を見ると 「くあー」と1つ大きな欠伸をしてからそう返してきた。
まだ眠いのか頬杖をつきながら眠気眼でボーっと前を見つめている。
私はそんなジローを見て「いつもこうなら可愛いのに」と苦笑。
そして“今なら”と思いまた口を開く。


「ねぇジロー」
「なにー…?」
「申し訳ないんだけどこないだの講義のノート見せてくれない?」
「は?…ヤだし。誰か他のヤツにでも見せてもらえば?」


「は?」と顔をしかめながら返された言葉に「やっぱりダメか…」と心の中で溜め息を吐く。
これがきっと私じゃない誰かに同じことを言われたとしたら ジローはきっと普通にノートを貸してあげることだろう。
なんせジローがこんな言い方をするのは私に対してだけなのだから。

だけどジローがなぜ私にだけそんな態度をとるか原因は未だ分かっていない。
その事実が初めて分かった時にジローに直接聞いてみたことがあったけれど「知らないし」と一蹴されてしまった。

……嫌われている訳ではない、と思う。
それならきっと先ほどのように挨拶をしたところで返事など絶対に返してくれないだろうから。


「…ジローのイジワル。金髪の癖に。天パの癖に。寝ぼすけの癖に。ボレーヤーの癖に!」
「意味分かんねーし。そう思ってんのだけだから」
「冷たいくせに名前呼びだし」
だって俺のこと名前で呼んでんじゃん」
「私はいいの」
「…てか周りがそう呼ぶから移っただけだC」


そう言いながらジローは一度も私の方を向いて話してはくれない。
目線は常に前を向いていて返答してくれるものの本当は会話をするのも嫌だと思っているのかもしれない。
やっぱりこんな態度をとられてるのに嫌われてないなんてこと、有り得るんだろうか…。

なんて思っていた時、ハッとあることに気がついた。
もしかしてジローは私の気持ちに気付いてそれでこんな態度をとってるのかもしれない。

いや、待て待て。
よく考えてみたら私がジローを好きになったのはほんの半年ほど前のことで それより前からジローは私に対して冷たかった。
ということはこの考えも違うことになる。


「ジローはさ、やっぱ私のことが嫌いなんですか」
「…違うね。どっちかってーと、憎んでる?」


最後を疑問にしながらもそう言ったジローの言葉を理解した瞬間、 頭が真っ白になってツキンと胸に痛みが走った。
と思ったらじんわりと目頭が熱くなりギュッと胸が苦しくなる。
それは嘗て無いくらいのショックで、なぜ聞いてしまったのか…そんな後悔に襲われる。

まさかジローからこんな答えが返ってくるなんて思いもしてなくてなんとなくで聞いたつもりだったのに 返ってきたのは以前と違う余りにも残酷な言葉。
それでもまだ直接目を見て言われた訳じゃないだけ救われた。
ジローの視線はやっぱり前を向いたまま動くことはなくて 私は歪む顔を隠すために少し俯き平静を装った声を出す。


「な、にそれ……」
「何それって言われてもー」
「そんなのっ、…まだ嫌われてる方がマシだよ」
「なんで?」
「なんでって……」
は何をそんな気にしてんの?」
「だって憎んでるって憎悪、だよ?憎悪っ!ちゃんと意味分かってる?」


平静を装ったはずなのにそれは上手くいかなくて声が揺れ口調が多少荒くなる。
それでもジローは決して私の方には顔を向けず返答だけしかしない。
それも適当に喋っているようにしか思えないような口調でだ。

憎んでるんだったら何で名前で呼ぶの?
何で挨拶だって返してくるの?
何で無視しないの?
避けないの?
嫌な顔1つしないの?
なんでなんでなんでっ…!

私は段々必死になっていく自分がバカみたいに思えた。
憎まれてるなんて知らずに勝手に嫌われてないなんて思って一方的に好意を寄せて本当にバカみたいだ。
そう思ったら本格的に視界が滲んでき目からは今にも涙が零れ落ちそうに溢れている。
すると、不意に「ハァ」と溜め息が聞こえジローがこっちを向いたのが分かった。


「……あのさ、“愛情とは憎悪の裏返し”って言うじゃん?」
「………えっ?」


開かれたジローの口から発せられる言葉が耳に届きその言葉を瞬時には理解できなかった。
少しの間と戸惑ったような声が私の口から漏れた。

そっと顔を上げてジローを見ると「何でそんな顔してんの?」とでも言いたげな表情で私を見ていた。 そして次の瞬間には先ほどのジローの言葉をしっかり理解したのか顔に熱が走る。
私はバッと手で涙を拭うと今もちゃんと私の方を見ているジローに視線を合わせ口を開いた。


「い、言わないよ!そんなの!」
「だって愛と憎しみは紙一重って、よく聞くC」


あっけらかんとそう言ってのけるジローに私はさっき受けたショックを返せ!なんて思った。




愛情とは


憎悪の裏返し



(これって多分、両思いだって思ってもいいんだよね…?)




この夢を気に入って頂けたならポチリ
無意味に大学生設定です。イジワルなジローって本気で萌えます。好き。
(2009.04.22 ハクリ)